人間の記憶というのは面白い。
　今が幸せな人は、過去を振り返る時嬉しかった記憶がよみがえるし、今が不遇だと過去の苦しかったことしか思い出せない。

　以前、「子供の頃に親に虐待を受けた」という生徒がいたが、合うたびに「今の私は親の虐待のせいです」と言っていて、答えに困ったものだ。
　トラウマという言葉がはやりだし、自分の今の現状を過去の経験のせいにするという風潮があったころだ。
　
　過去に何があろうと、何の努力もせず、過去から学び事もなく不遇な今を生きている人が、自分を守るのは「過去のせいで今の自分がある」という言い訳である。

　私が勧めるのは、とにかく「今を快適に暮らすこと」そうすれば過去の記憶は「楽しいことだけを思い出す」ようになり、未来の展望は過去の延長から想像するので「楽しく嬉しい未来が目に浮かぶ」というポジティブな循環になる。

　未来の展望も、過去の思い出も、
今の自分の気分感情が選んでいるのだ。
　ということが分かれば、悩みも少なくなる。

　私たちは「今の気分感情」で、過ぎし日の後悔を呪い、これからやってくる未来に絶望するのだ。

by 矢上 裕